
春の訪れを随所に感じる3月。
杉林に囲まれたとある作業場で、黙々と筏作りに励む男性が一人。
キャリア12年を数える現役の筏師・中山敏男さん、その人だ。
「時間があればここに来て、5月の運行に向けての準備をしとるよ」。真っ黒に日焼けした顔でやさしく語りかける中山さんは、現役の筏師の中でも一番のキャリアを持ち、その人望の厚さから、リーダーの山本さんとともに若手を引っ張り、日々観光筏の発展に尽力されているのです。

「北山村の筏はすべてが手作り。人の魂が詰まってます」
そうして出来上がった筏が川へと運ばれ、いざ観光客を乗せスタートする瞬間、感無量の気持ちになると中山さんはおっしゃいます。
「そりゃ喜んでくれるとうれしい。ただ我々はいつも真剣勝負。特に激流では何が起こるかわからないからね。見た目以上に難しい。レールに沿った道を走る訳ではないし、その場での臨機応変な対応、アクションが必要。でもまぁ、これは経験やね」。
自らが歩んできた苦労、時間を振り返り、筏師としてのキャリアを語る中山さんは、同時に筏師としての伝統を受け継いできた先人たちへの敬意を忘れません。

「我々は今あるものを受け継いでいるだけ。ただ村の伝統を復活させようと奔走された先人たちは本当に大変だったと思うよ。こうした努力が実を結び、今ではIターンやUターンで若者が移住してくる。うれしいことやけど、その重みと責任を同時に感じてるけどね」。
山と川を財産とし、大自然の営みを日々の生活に結びつけ暮らす村民にとって「筏」というツールは過去の偉大な歴史であると同時に、今の村の活力を支える源でも。
その価値を理解する中山さんだからこそ、自らが先頭をきり誰もいない作業場で一人製作に励むなど、ベテラン筏師としてたくましい背中を無言でみせているのかもしれません。

「この技術は今も昔も変わらない。いつまでも憧れの職業であってほしいね」
川に下り、若者と話す中山さんは常に笑顔。
息子ほどに年の離れた若手筏師とも積極的にコミュニケーションをとる姿勢に、ベテランとしての風格、そして先輩としての優しさを感じるのは私だけでしょうか。